但馬といったら『おだがきさん家の八鹿豚』を目指して

2024/03/01

八鹿畜産養豚部は、幻の豚『八鹿豚』を生産する養父市唯一の養豚農家だ。一次産業として、独自ブランドである『おだがきさん家の八鹿豚』を育て出荷する傍ら、ベーコンやソーセージ・ポークカレーなど加工食品の販売を行っている。

今回は、八鹿畜産養豚部のこれまでとこれからについて、八鹿畜産養豚部の島垣縁(しまがき ゆかり)さんに話を聞いた。

創業当初からブランド立ち上げまで

八鹿畜産養豚部は、島垣さんの祖父である小田垣恂二氏が昭和56年に創業し、当時は関西でも1・2を争う畜産団地であった。

「当時からバブル崩壊までの間は、畜産業はもうかる仕事という認識があったと聞いています。」
と八鹿畜産の歴史について話す島垣さん。

バブル崩壊後は、飼料価格の高騰や豚肉価格の低迷・後継者不足などが要因で、養豚農家は徐々に減少し、創業当初、畜産団地に7軒あった養豚農家は平成24年には2軒になり、翌年の平成25年には唯一の養豚農家となった。

島垣さんのご家族が繋いできた養豚業も廃業寸前まで追い込まれたこともあったそうだが、なんとか八鹿豚を守っていきたいという思いで、家族で力を合わせて作り上げてきたのがブランド『おだがきさん家の八鹿豚』だ。

畜産業に従事することになったきっかけ

畜産や農業を学ぶ高等学校へ進学はしたが、進学時には、自分が家業を継ぐということは全く考えていなかったという島垣さん。

ただ幼い頃から豚はもちろん動物に囲まれた環境で育ってきたので、動物が好きで、いずれ動物と触れ合える・関わる仕事に就けたらいいな程度に考えていたようだ。

畜産業を継ぐきっかけの1つとなったのが、農業高校の学生が未来の農畜産業のために活動している「農業クラブ」の三大事業である「日本学校農業クラブ全国大会・意見発表部門」への出場だ。

「八鹿豚にかける我が家、三世代に続く養豚経営」という題目で、小田垣一家の想いを背負った当日。

「八鹿豚を但馬牛のような全国に広められるトップブランドにするのが、私の夢です。」という熱い文章で、最優秀賞・農林水産大臣賞を見事に受賞することに。

その出来事が、大きな決め手となった。

「引くに引けなくなったということもありますけどね。」と笑顔をみせる。

ただ大会の練習を繰り返すうち、祖父母・両親が守ってきたこと、豚を育てることの大変さなど、養豚業について深く考えるようになり、養豚の道に進むために背中を押してもらった良いきっかけになったという。

八鹿豚の特徴とこだわり

八鹿豚の特徴は、他の国産豚に比べると脂の融点が低く、加えて脂の甘みが高いため、調理後、冷めてしまってもパサつきにくく、旨味も十分に感じられる。

これらの特徴は、こだわりを持って飼料の改良や検証を重ねてきた結果から来ている。

価格高騰などの理由で、国産飼料だけではまかなえない場合や、呼吸器系の病気の時には抗生物質に頼らざるを得ない状況もあるそうだが、添加剤や合成飼料などは極力使用せず、自然由来のものを使用したいと常に考えているという。他にも飼育環境は騒音の少ない場所・水は養父市で採れた天然水などにこだわり、豚にとって出来る限りストレスの少ない環境で育ってくれるように心がけている。

それらのこだわりが、八鹿豚の強い旨味と甘みの理由だ。

『おだがきさん家の八鹿豚』は、フードロスなど食品残渣の問題に取り組み、地元地域と連携して、育っていく。
そんなブランドにしたいという思いを込めており、そのための活動も惜しまない。

地元の洋菓子メーカーであるカタシマ株式会社のケーキクラム(焼き色の悪いものなど商品としては出せないもの)など廃棄するものを頂き、飼料として一緒に与えていることは『おだがきさん家の八鹿豚』の独自的な取り組みだ。ケーキクラムを与えることで、肉質に直接的な効果が出るというより、豚の嗜好性を高めて、食欲が増しているように感じるという。

人が辛いものを食べた後は甘いものを食べたくなるように、豚にもいつもの飼料だけではなく少し飼料を変えてあげることで、ストレスの軽減・食欲増進に繋がっているのだ。

「いつもケーキを与えると興味を持って食べてくれます。」
と嬉しそうに話す。

畜産業のやりがい

島垣さんは、現場・経理・営業のほぼすべての業務をこなされているが、一番充実感のある業務はやはり現場で、家族同様に愛情を込めて育てているので、あのかわいい姿を見るとやりがいを感じるという。

畜産業は、初期設備投資や病気による出荷停止など様々な障壁があり、誰でもできる仕事ではない。

その中で、環境やご縁に恵まれて、養豚に従事できる事は感謝だ。
手をかければかけた分だけ豚が応えてくれ、反対に手をかけないと死んでしまうため、命を扱う仕事というのは、大きな責任が伴う。その責任を十分に感じることで、この子達のために頑張ろうと思え、逆に自分自身がこの子達に支えられているという。

現場以外の業務に関して、島垣さんは代表という立場ではない中で、裁量権をもって色々なことにチャレンジしている。

「自分で前に出て色々と考えて動くことは、可能性しかないんです。」

良くも悪くも自分次第で事業が自分色に変わっていくことが、やりがいだ。

おすすめの食べ方

生のお肉に関しては、シンプルに。

焼きであれば、塩コショウだけ。
しゃぶしゃぶであれば、養父市特産品の朝倉山椒の粉末やポン酢だけなど。

旨味や甘みの強い豚肉に自信を持っており、生産者としては、素材そのものの味を楽しんでいただきたいという。

そういったシンプルな味付けで食べると、より八鹿豚の旨味を感じられるだろう。

おすすめの加工食品

数ある加工食品の中でもおすすめは、焼豚とペッパーステーキ。

先ほどのシンプルな味付けとは異なり、濃い目の味付けでお酒にもよく合う商品だ。
焼豚は八鹿豚の柔らかくしっとりとした肉質の食感に加え、ブラックペッパーのスパイシーな香りがお肉の旨味・甘みをしっかりと引き立たせ、存分に八鹿豚の特徴を味わえる一品になっている。
ペッパーステーキのお肉は親豚を利用している。親豚は、通常の八鹿豚と比べると臭みや肉質の固い印象があるため、加工品として利用しているが、成育期間が長いからこそ旨味が凝縮しており、通常の八鹿豚とはまた違った特徴で味わい深いものになっている。BBQでも日々の食事でも何にでも美味しく食べられそうだ。

また、生ハムの試作を現在進めているとのことで、今後八鹿豚の生ハムも地元精肉店の店頭に並ぶことに期待したい。

今後の展望について

このブランドを立ち上げた当初から実現したいことは、豚肉料理の専門店の開業。
特に兵庫県は養豚農家が少ないため、ここで豚を広めていくということが専門店を開きたいという一番の理由。

養豚業を営んでいると、ロース肉は使いやすいためよく購入されるが、バラ肉などはどうしても余ってしまうそう。
「余ってしまう・捨てられてしまう部位を有効活用した飲食店に挑戦していきたいです。大事な命を扱っている以上、余らせたくないんですよね。」
と、ここにも島垣さんのフードロス問題に対する真摯な姿勢がみられた。

また豚は、捨てる部分が無い生き物で、食肉としてだけではなく、豚皮を使ったレザー商品などもアパレル商品にも展開を模索中とのことだ。
特に豊岡市はカバンの街であるので、但馬全体で産業のコラボレーションができるのではと期待も膨らむ。

このように一次産業としての養豚だけではなく、1つの産業として養父市内でも大きな産業と言われるまでにしていくのが目標。
「コラボしていただける事業所様ございましたら、是非お声がけください。」
と明るい表情をみせる。

飲食店は、数年以内を目標に立ち上げたいと考えており、今はいい物件やいい条件・人材がいないか常にアンテナを張っているという。
やるからには、自分の色を出した唯一無二の八鹿豚専門店を立ち上げたいと日々思案中とのことだ。

ブランド立ち上げから10年の月日が経ち、大切にしていること

色々なところからお客様の言葉をいただく機会も増え、それなりに浸透してきていると自覚はあるという。
しかし、まだ但馬内でも『おだがきさん家の八鹿豚』の存在を知らない方は多く、地元が100%認知してくれるような、但馬といったら『おだがきさん家の八鹿豚』だと口を揃えて言ってもらえるようなブランドにしてきたいと意気込む。

やはり地元との連携は意識するように日々行動しているという。
既存の産業に新規として入っていくにあたって、元々そこで商売をしている企業の商売敵にならないよう、住み分けや連携ができるようWin-Winの関係が大切だと話す。

あとはご縁とタイミングと自分の直感だ。
経験として直感やタイミングなど自分の感覚で、養豚業が軌道に乗り始めたこともあり、そういった自分の感覚を大切にしている。
自分で見て聞いて納得して、これだと思うタイミングで実行に移す。

そんな徹底的なスタイルが八鹿畜産養豚部の現在の発展に繋がったのだろう。

八鹿豚の専門店・生ハム・豚皮のレザー商品など…八鹿畜産養豚部から発信される魅力的な商品に今後も注目していきたい。