創業120年、愛され続けるお醤油屋さん

2021/10/01

豊かな自然と澄んだ空気。養父市広谷にて創業以来変わらない味と技を貫き通している有限会社中野醸造。清流、大屋川の伏流水と家伝の麹、天然塩を原料に、自慢の醤油が仕込まれます。その歴史、なんと120年。

そんな歴史あるお醤油屋さんのお話を伺うべく蔵に足を運ぶと、出迎えてくれたのは中野醸造の代表取締役、4代目の中野雅人さんとご家族の皆様でした。

家族総出でお出迎えなんて…!と恐縮していたのですが、そうではなく、中野醸造は代々家内工業で、家族みんなでお仕事されているそうです。

古くから続くお醤油屋さん…厳格で少し怖そうというイメージもありましたが、いざ取材が始まるとそんな印象とはうってかわり、現場は終始笑いが絶えず、和やかな空気に包まれていました。

結婚相手がたまたま醤油屋の娘だった

23年前、お醤油屋さんの娘だった奥様との結婚をきっかけに醤油づくりの世界に飛び込んだ雅人さん。仕事や環境が変わること、歴史ある醤油屋の後を継ぎ、中野醸造の4代目になることに不安はなかったのでしょうか?

「中野醸造を継ぐまでは調理師学校に通って調理師として働いとったし、工場で働いた経験もあったで、不安は全くなかったかな。むしろ味に関するものづくりだから面白そうで楽しみっていう気持ちの方が大きかったわ!」

なるほど、中野醸造さんの後継ぎにもってこいの人材だったというわけですね。

歴史の裏側

120年前からずっと変わらない醤油蔵は雰囲気があり、中野醸造の歴史を感じます。機械の老朽化など課題はあるそうですが、昔から同じ設備で、伝統ある製造方法を受け継いでいくことで、変わらない味を届けることができると言います。

重たいものを持つことも多く、基本的に力仕事なので身体に堪えるそうですが、中野家の皆様はそんなことを感じさせない明るさです。

次世代へつなぐ

さて、先ほどから4代目の隣に座っているこちらの男性が気になっている方も多いのでは?

こちらはこの春大学を卒業し養父市に帰ってきたばかりの長男・中野宗一郎さん…つまり中野醸造の5代目なんです!

現在、中野醸造では御年80歳まだまだ現役の3代目、熱くユニークな4代目、そして5代目の宗一郎さんと3世代が一緒に働いています。先代の技術を学ぶには絶好の環境ですね。

大学の4年間は京都で過ごし、経営を学んだという宗一郎さん。家業を継ぐことはずっと意識していたといい、在学中には日本発酵文化協会が認定する「発酵マイスター」の資格を取得されたそうです。

また大学周辺の商店街を活性化させるボランティア活動などにも参加していたと教えてくれました。

「父がよく地域のボランティアに参加していて、自分も子どもの頃からついて行ったりしてたので、自然とそういう活動をするようになりました。」

多くの事業者が後継者問題を抱え、地元を離れる若者も少なくない中で、宗一郎さんのように家業を継ぐ若者が現れることは地域全体の元気にも繋がります。

『親の背を見て子は育つ』それこそが中野醸造の長い歴史、変わらぬ味の本質ではないでしょうか。

朝倉山椒を使った新商品の開発

そんな5代目が帰ってきて、最初に携わったのが、今イチオシの新商品「但馬の醤酢」の開発でした。

それは、市内で朝倉山椒の生産や加工品を販売している事業者から「朝倉山椒を使って何か新商品を考えてくれないか?」と相談を持ち掛けられたことがきっかけでした。

なんでも大手取引業者から受けていた朝倉山椒の佃煮の注文が一昨年より無くなってしまったのだとか。その数なんと1万4000個。佃煮の受注が無くなることで朝倉山椒は大量に余り、醤油の使用量も激減。これはなんとかせねば!と思い、新商品開発に向けて朝倉山椒の特徴について調査を始めました。

養父市発祥で地元の特産品でもある朝倉山椒。かつて豊臣秀吉や徳川家康も好んだといわれており、ほかの山椒に比べ、柑橘系の香りを放つ成分リモネンを多く含んでいます。そこに目を付けて、ポン酢に使用している柑橘類の代わりに朝倉山椒を使用したら面白いのでは?と考えたそうです。

2人の「道標」に

そうして試行錯誤の上、出来上がったのが「但馬の醤酢」。

朝倉山椒をイメージさせる鮮やかな黄緑のパッケージ。日本・但馬の代表的な発酵調味料になってほしいという思いや、オリジナリティを出すために考え抜いて付けられたネーミング。4代目と5代目のこだわりが散りばめられた、二人の合作とも呼べる商品です。

さっぱりとしたベースに朝倉山椒の風味が絶妙にマッチしていて、料理をより一層美味しくしてくれます。柑橘系のポン酢に比べると優しい酸味で、ポン酢特有の酸っぱさが苦手な人でも食べやすいです。鍋物や刺身はもちろん、餃子等につけて食べても美味しそう。

兵庫県の経営革新計画にも承認され、この商品を4代目と5代目の「道標」として130年140年目を迎えられるように頑張っていきたいと話してくれました。

 

これからの中野醸造

新商品の発売、5代目の入社など明るい話題に溢れた中野醸造ですが、今後のことに不安が無いわけではないと話す4代目。これからの時代の波に乗っていくには、今までと同じことをしているだけではダメだと日々考えているそうです。

そんな創業120年目という節目の年に帰ってきた5代目。若者ならではのインターネットの知識を活かし、早速Twitter、Instagram、Facebookを使った営業活動を始めました。「最高のタイミングで帰ってきてくれた。」そう話す4代目は本当に嬉しそう。

コロナ禍で宴会や会食の機会が減り、醤油の注文にも影響が出ているそうですが、一方でお弁当や巣篭もり需要が高まっているといいます。そうしたニーズの変化にも柔軟に適応できる、中野醸造ならではの強みもあります。

中野醸造はサザエさんに登場する「三河屋さん」と同じように、地元のお家を一軒一軒まわってお醤油を販売しているそうで、こうした地域の絆があることはとても心強いそうです。手間も時間も多くかかる販売方法ですが、高齢者の多い但馬ではとても感謝され、皆さん喜んでくれるのだとか。顔を合わせて販売することで、今回のように新商品が出来たとき、「試してみて!」とお願いもしやすいそうです。取材中もしょっちゅう電話が鳴っており、たくさんの人に愛されているお醤油屋さんなんだなと感じました。

大手企業にない地域との絆。たくさんの愛に溢れた温かく素敵なお醤油屋さん。そこに加わった新たな力。次世代へ繋ぐ「但馬の醤酢」という道標とともに、中野醸造はこれからも長い歴史を刻んでいかれることでしょう。