“好きこそものの上手なれ”ものづくりのプロフェッショナル

2021/03/08

社屋から突き出した恐竜の頭。なぜ恐竜なのか?その答えは意外なほどシンプルだった。童心を忘れず、好きを極めた“ものづくり”のプロフェッショナル。株式会社トージ工芸の田路社長に話を聞いた。

同業者にも頼りにされる圧巻の技術力

株式会社トージ工芸は兵庫県養父市小城で、板金加工・レーザー加工による金属看板、表札、装飾品等の製作をおこなっている。今年(2021年)3月には創業41年目を迎え、数多くの実績を持つ、地域に根ざした企業だ。

取材のため案内された応接スペースには、ステンレス、真鍮、アルミ、アクリル、銅など様々な素材の表札や銘板、装飾品が並べられ、まるでアトリエのようだ。

細部までこだわり作ることをモットーにしている。そう言って田路社長が取り出した技術サンプル。一円玉と比べるとその緻密さが分かるだろう。こんな細かな加工を車ほどもある大きな機械でやっているというから驚きだ。

機械の性能を引き出すのもその腕次第。トージ工芸は田路社長をはじめとした熟練の技術者により、限界を超えるパフォーマンスを発揮させている。このようなレーザー加工機で先程のサンプル並の精密加工をするのは非常に難しく、メーカー担当者も『どうやったの!?』と舌を巻いたそうだ。

「他社には真似出来ないことをやりたいと思っているので、難しい要望をされた方が逆に燃えてくるんです。」

まさに“職人”といった言葉だ。取引先や同業者からも『悩んだらとりあえずトージ工芸に聞いてみよう』と相談を受けることが多いらしい。困ったときの最後の砦。顧客から絶大な信頼を置かれるその技術力は、どのようにして培われたのだろうか。

きっかけは解体屋?ものづくりの原点

トージ工芸は田路社長の父である先代が1980年に創業した。子どもの頃から看板製作を生業にする父の姿を見て育ち、自身も自ずと“ものづくり”に興味を持ったという。

時計やラジオなど身近な機械を分解しては元に戻す。そんな遊びを繰り返した。また高校生の時には、近所の解体屋に廃棄されていたバイクを譲り受け自分で修理をしたのだとか。

「構造なんて全く知らないところから試行錯誤して、やっとエンジンがかかった時の喜びは今も覚えています。」

難題に挑戦する楽しさは、少年時代も変わらず持ち合わせていたようだ。将来は家業を継ぐつもりでいたが、この経験から車やエンジンに関心を持ち、高校卒業後は自動車整備学校に通い整備士の資格を取得することとなる。

「田舎だから家業をしていればそれを継ぐのが当たり前という感覚でしたが、若いうちに一度は自分の好きなことをやらせて欲しいと、自動車整備の勉強をさせて貰いました。」

※イメージ画像

ここでもまた解体屋に通い詰め、スクラップの修理や改造など、好きなことから今に繋がる技術を磨いていったそうだ。その後は家業とも関わりのある大阪の大手看板メーカーに就職。業務内容はもちろん、チームワークやコミュニケーションの重要性を学んだという。

「昼休みや仕事終わりに職場の道具を借りて、同僚とバイクの部品を作ったり、そんな遊びや関わりの中で金属加工の楽しさに目覚めていきました。」

トージ工芸は当初、木枠とトタンを張り合わせた看板製作のみをおこなっていたが、田路社長が地元に帰るにあたり新しく設備を導入。板金加工やレーザー加工など、複雑な金属加工を伴う仕事が可能となり今に至っている。

喜びの声多数!高い顧客満足度

田路社長に案内していただき工場内を見学させて貰った。ところ狭しと並ぶ多種多様な工具や機械。それが物語るように、現在トージ工芸は非常に幅広い営業メニューを掲げている。

その中でも近年は表札製作に特に力を入れているそうだ。住宅メーカーなどから安定した受注があるほか、自社サイト“表札スタジオ”でのネット通販も盛況という。

「ネット通販はお客さんの感想がダイレクトに入って来るので、作り手としてとても励みになっています。」

表札スタジオには“我が家の表札自慢”というコーナーがあり、全国各地の購入者から喜びや感謝の声が数多く寄せられている。“家の顔”とも言うべき重要アイテムの製作において、これだけ顧客の満足度が高いのは、トージ工芸の技術力あってこそだろう。

昨年は新たに金属の折り曲げ加工が可能な機械を導入したという。より幅広い商品展開で引き続き表札製作に注力していくそうだ。

恐竜の意味

恐竜関連の商品を扱っているのか。単に恐竜が好きなのか。取材の終わりに記者の率直な疑問を尋ねてみた。

「特に深い意味はありません(笑)以前とある業者から譲って貰ったものですが、せっかくなら飾っておこうと、強いて言うなら“遊び心”ですね。」

なるほど、遊び心。会社紹介や生い立ちエピソードを聞いたあとでは、その言葉がとてもしっくりときた。その言葉にトージ工芸の歩みや田路社長の生き方が集約されているように思う。

今回の取材の内容はまさに、好きこそものの上手なれ 。そのことわざの通りである。ものづくりが好きで、ものづくりがしたくて、ものづくりで生きている。シンプルだが、それ以上の理由はない。田路社長はそんな人だ。

好奇心。向上心。創意工夫。試行錯誤。一生懸命。“好き”が生み出す力は偉大だ。“好き”はいつも限界を超える力になる。頭上に突き出した“遊び心”が、それを物語っているように見えた。