森の恵みをとことん活かす!

2020/06/12

養父市の玄関口 八鹿・氷ノ山IC隣「道の駅 但馬蔵」地元の特産品やお土産などを数多く取り扱うこのお店で、一風変わった商品を見つけた。

もりみず?見たところ芳香スプレーかミストのようだが。テスターを一吹きしてみると・・・優しい森林の香り。一般的な芳香剤とは一味違う自然な香りがした。「森水」とは、まさしくその通りの商品である。

道の駅で販売しているということは、地元の商品なのだろうか。気になって調べてみると、これは養父市で木材加工等をおこなう「正垣木材株式会社」の商品であると分かった。

ということで、養父市大屋町“大杉” 正垣木材株式会社の本社・工場にやってきた。さすが木材を扱う会社だけあって、所在地名まで“木で出来ている”。そして辺りに広がる爽やかな森の香り。

急な申し出に関わらず、社長の正垣雅浩さんと営業担当の植田純子さんの2名が取材に応じてくれた。さっそく本題の「森水」について聞きたいところだが、まずは正垣木材の事業内容を紹介していただこう。

木材を出来る限り無駄にしない

正垣木材は社長の祖父にあたる先々代が昭和26年(1951年)に創業。当時は馬を使った運搬業からスタートし、山林から木材を運び出す仕事などをしていたそうだ。

その後、時代の流れとともに徐々に業務内容を変え、現在は木材チップの製造を主に、バイオマス発電燃料や輸出梱包材、木製パレットの製造、解体材や木くずの処理等、木材に関連する幅広い業務をおこなっている。

「他社が扱わない低質な木材、廃棄されてしまう木材も出来るだけ活用することをモットーにしています。」

それは限りある資源を無駄にしないというだけでなく、自社の強みでもあると言う。

「一般的な材木屋だと木の良い部分から建築材などをとったあと、残った不要な部分をどうしようかという悩みがでる。私たちは最初から不要な部分を扱う仕事(チップ製造)を本業にしているから、そういう悩みが出ないんです。要らない部分がありません。」

正垣社長は幼少期より工場の敷地を遊び場とし、木材に親しんできたという。中高生の頃からはアルバイトで仕事の手伝いもしていたそうだ。

「とにかく体を動かすことが好きで、木にも親しみがあったので自然と家業を継ぐ道を選んでいました。」

大学卒業後に正垣木材へ入り、平成19年(2007年)に先代から事業を継承。そして一昨年、新たな取り組みとして木材を原料とした“木の香り事業”をスタートした。そうして生まれたのがこの「森水(SHINSUI)」である。

新たな挑戦 ~香り事業~

「森水(SHINSUI)」は兵庫県但馬地域の木材で作らた天然アロマ製品だ。現代の便利な生活環境の中では、意識しにくい森の恵み。森の恩恵を受けた水を、もっと身近に感じて貰いたいという思いがこめられている。開発の経緯をうかがった。

「神戸や大阪など都市部のお客さんが来社されると、決まって『木の良い香りがする』と言われます。自分たちが普段当たり前に接しているものに価値があると思ったことが、この“香り事業”と“森水”を生み出すきっかけになりました。」

正垣社長はかねてより「木材を出来る限り無駄にしない」という会社の理念に沿った、新たな事業を模索していたという。木に含まれる水分や香りまで活用するこの取り組みは、その想いにぴったりと当てはまった。

植田さんは2017年入社。子育てが一段落して仕事を探していたとき、目に留まったのが正垣木材だったそうだ。

「母の実家が大杉地区にあり馴染みのある場所だったことや、もともと木の香りが好きだったのでそれに囲まれて働ける環境に魅力を感じました。」

入社後、新たに立ち上がった香り事業の担当となり、商品PRや展示会での営業活動など日々奮闘されている。

「森水の販売に携わるようになって、それまで入浴剤や芳香剤など『これが木の香りだ』と思っていたものが、実際は全然違っていることに気づきました。今は『本物の木の香り』の魅力、奥深さに夢中になっています。」

森水(SHINSUI)シリーズは、天然ひのきの蒸留水「ひのき芳香水」など香りを楽しむ用途の製品からスタートし、顧客の要望を受け、アロマオイル、お茶、スキンケア製品など、徐々にラインナップを拡大させている。植田さんにおすすめの商品を紹介していただいた。

但馬産ひのき精油

「但馬産ひのき精油は、原材料収集から製造まですべて但馬でおこなっています。2018年11月に装置を導入し、精油の抽出から自社生産をうたえるようになりました。アロマオイルとしてご使用いただき、ひのき本来の自然な香りをお楽しみいただきたいです。」

ひのきに含まれるαピネンは、森林浴効果を生み出すさわやかな芳香成分で、消臭・防虫等の効果があると言われている。正垣木材では、木材取扱会社である自社の特徴を活かし、アロマに馴染みのない方でも手軽に使用できるアイテムの製作もおこなっている。気になる方は是非試していただきたい。

くろもじウォーター

「くろもじは古くから楊枝の材料とされてきた樹木です。枝、葉などからそのまま抽出し、他に何もまぜない自然素材の天然アロマ水を作りました。フローラル調の甘さと森林の香りが楽しめます。リナロールという成分が含まれていて、お部屋に散布することでリラックス効果も期待できます。」

ほのかな香りが気分を和ませてくれそうだ。森水シリーズは正垣木材の店舗以外にも、道の駅やインターネットでも販売されているので、興味のある方はぜひ一度手にとって試してみて欲しい。

地域の木材で地域を元気にしたい

最後に、正垣社長に今後の目標を聞いた。

「香りを通して多くの皆さんに森の恵みを感じていただきたいですし、更にそこから一歩進んだ商品を開発・提供していきたいと思っています。まだはっきりとしたことは言えませんが、精油には除菌や防虫、消臭の効果もあると言われておりますし、そういった面に着目した商品開発を進めていきたいです。」

チップ製造などの既存事業はもちろん、新たな香り事業にも積極的に投資をおこない、新たな価値を創造していくという。正垣社長はこう続ける。

「森に囲まれたこの地域で、木材に携わっている自分たちが、頑張ったりチャレンジしたりする姿を見せることで、地域を元気にする一助になれればと思っています。」

我々が暮らす養父市は少子高齢化や過疎化など多くの問題を抱えている。森林が大半を占めるこのまちにおいて、そこにある資源としての木材の活用や付加価値の創造は、単に正垣木材という一つの会社の出来事に留まらず、いずれ地域全体を照らす光となるのではないだろうか。

長らく外国産に押され減少していた国産の木材需要も、近年様々な要因から見直され、回復傾向にあるという。正垣木材の取り組みが、こうした時代潮流に乗って飛躍し、このまちの活性化に繋がることを願っている。