農業・アウトドア・地域活性化 ~ 竹が持つ無限の可能性

2020/06/22

バンブーライフアグリは、荒れた竹林の手入れや土壌改良材の竹パウダーを製造販売するなど、その名の通り竹の利用・活用に関する業務をおこなっている。

代表の谷口健一さんは前職、一級土木施工管理技士として建設会社に勤め、八鹿和田山道路など地域の公共工事にも数多く携わってこられたそうだ。そこからどのような経緯で「竹の利活用」という仕事に取り組むようになったのか。話を聞いた。

発想の転換、人生の転機

「きっかけは今から7~8年程前、知人から竹を使った米作りの方法について聞いたことです。そうするとお米がおいしくなるというのですが、どうしてそうなるのか興味があって、竹パウダー考案者のもとへ話を聞きに行ったんです。」

それまで竹を使ったものづくりというと、ザルや水鉄砲など工作のイメージばかりで、農業に利用できるとは考えてもいなかった。自分の常識を覆すその発想が面白く感じられたそうだ。また丁度その頃、定年退職後の人生についても考えていた時期であったという。

「長年携わってきた土木関係で起業するという選択もありましたが、公共工事も減少していて、もうそういう時代でもなくなっていた。それなら自分のペースで何か新しいことを始めてみたいと思ったんです。」

そんなときに「竹パウダー」と運命的な出会いを果たした谷口さん。その効果や活用方法に大きな可能性を感じたという。しかし当時市場に出回っていた竹パウダーは必ずしも品質が良いものとは言えず「だったら自分でもっと良いものを作ってみよう」という気持ちが芽生えたそうだ。

「土木と竹の利活用。一見全く違う仕事にも思えますが、ものづくりというジャンルで見るなら、共通する部分、前職で培ってきた知識や経験が活かせる場面も多くあります。新しい仕事で心機一転。自分の腕が試せることにワクワクしていました。」

「竹パウダー」とは

「竹パウダーは、竹を専用の機械でキメ細かいパウダー状に砕いたもので、農業用の土壌改良材として使用するものです。」

農業では普通、農薬や化学肥料を使うことが一般的である。作物の見栄えが良くなり重宝されているが、多用すると土の中に塩素など有害な物質が蓄積し、野菜のエグみが増したり、味が落ちる原因にもなるそうだ。またアレルギーなど、人体への影響も懸念されている。

そうしたことから近年、無農薬栽培や有機野菜など、安心安全な食への関心が高まり、自然の土壌改良材として竹パウダーにも注目が集まっているそうだ。

「自然界では落ち葉や枯草が微生物の力で分解・発酵され、それを養分にして植物が生長するサイクルが生まれます。竹パウダーを畑に撒くことで、自然と同じように微生物発酵によって土壌を肥沃化して作物の生長を促すのです。」

竹にはブドウ糖やデンプンが多く含まれており、それが微生物のえさとなって肥沃な土壌を作りだす。またミネラルやビタミンなどの栄養素も豊富なことから、農作物のおいしさに繋がることはもちろん、連作障害などにも効果があるそうだ。

竹が腐植するには通常多くの月日を要するが、細かいパウダー状に加工することですぐにより強い効果が発揮される。またバンブーライフアグリでは、竹の栄養値が最も高まる冬場に収穫をおこないパウダー化することで、その効果をさらに高めているそうだ。

発酵増殖した乳酸菌や酵母菌の作用で土壌を浄化・改良するので、作物の病気や害虫防止効果があり、減農薬にも役立つという。

「おいしいお米を作りたい、安心安全な野菜を食べて欲しいなど、志しを持って取り組んでおられる生産者の方々の力になれるように、こちらも品質と価格では他社に負けないものを作るよう努力しています。」

微細なパウダー状から小粒、中粒など、バンブーライフアグリでは用途に合わせた種類の竹パウダーをラインナップしている。インターネット通販もおこなっており、食への関心の高まりから、最近は特に都市部での家庭菜園向けなどで需要が増しているそうだ。

BBQコンロ「エコラ」

竹パウダーはその用途から農繁期に需要が偏る。バンブーライフアグリでは、その隙間を埋めて業務を平準化する取り組みとして、竹を燃料にするバーベキューコンロ「ECORA(エコラ)」を開発し販売している。実際に使用する様子を見せていただいた。

① 割った竹を焚口に入れて、バーナー等で火を付ける。

② すぐに着火して安定して燃えはじめる。(約3分)

③ 鉄板が温まり、素早く調理を始められる。(約5分)

④鉄板部分には耐熱シートを敷くことで、後始末も簡単になっている。

⑤煙も殆ど出ず快適。エコラでBBQを満喫しよう!

意外と知られていないそうだが、竹は燃焼効率が高いため炎も高温になり、すぐに調理を始められるそうだ。エコラは竹燃料の使用に特化した構造と、持ち運びや後片付けなど使い勝手の良さを特徴としている。なんと設計から製造まで、すべて谷口さんがお一人でされているそうだ。

「今はまだ自分の趣味みたいなもので、事務所の作業場で手作りしています。アウトドア関連のイベントへ出展するなどして今後需要が増えれば、設計に基づいて協力会社で量産する体制を考えています。」

竹燃料に特化したBBQコンロは他にない。長年ものづくりに携わってきた経験と技術。竹の利活用に取り組む谷口さんの発想あってこそ生み出された商品だ。昨今のアウトドアブームに乗って、需要の拡大が期待されている。

目指すのは「竹による地域活性化」

バンブーライフアグリは基本的に谷口さんの個人事業であり、繁忙期や大きな仕事を請け負った際に臨時でスタッフを募集している。

「竹林の手入れなど一人では難しい仕事は、主に地元の定年した方々に協力していただいて作業を進めています。定年を迎えたとはいえ皆さんまだまだ元気に働ける方ばかりですし、山仕事や農業の経験も豊富な方が多く本当に助かっています。」

竹は成長が早く、手入れをせずに放置しているとあっという間に荒れ果て、土砂崩れなど災害時の被害を拡大させるほか、害獣や害虫の温床にもなる。かつて筍を採るために適切に管理されていた竹林も、近年は高齢化や過疎化によって手入れの行き届かないものが増え「竹害」として全国的に問題となっているようだ。

そこで谷口さんは竹林の整備に必要な技術の提供や機械の貸し出し、地域の担い手の力を借りて手入れをおこない、得られた竹を「竹パウダー」などに加工して資源として活用する取り組みを進めている。これは持続可能な地域づくりにおける一つのモデル事業といえるだろう。また竹の利活用に携わるようになったことで、人付き合いや行動範囲も広がったそうだ。

「遠方から農業指導のお話をいただいたり、メディアの取材を受けたり、生産者と繋がりが生まれて野菜やお米をいただいたり、思いがけないところから新しい展開へ繋がっていく。これは前職時代にはなかったことで、日々やりがいを感じています。」

自分が楽しみ、人に感謝され、社会の役に立つ。谷口さんは竹の利活用という仕事を通して、日々その理想を追い求めている。それこそがバンブーライフアグリが存在する理由なのだ。最後に今後の目標を聞いた。

「竹を原料とした新素材の開発プロジェクトに携わっています。詳しくは話せませんが、大学や多数の企業が参加する一大プロジェクトです。自分が生きているうちに成果にはならないかも知れませんが、それで皆の暮らしが良くなるように、原料や情報の提供など出来る限りの協力をしていきたいと思っています。」

農業利用、アウトドアへの活用、地域活性化、そして新素材の開発。取材をするまで、竹にこれほどの利用価値、可能性が秘められているとは思いもしなかった。谷口さんの豊富な経験、溢れ出るアイデアと遊び心で、未だ見ぬ可能性が掘り起こされる日も近いかも知れない。