業界シェアトップ! 着物に使う油屋さん
八鹿町の免許センター近くにある「平安油脂化学工業株式会社」(以下、平安油脂)。広い敷地には、研究棟に製造工場、材料倉庫と大きな建物が並んでいます。ここで作られているのは「洋服や着物を作る工程で必要な薬剤(繊維助剤)」。一体どんなものなのか、社長の八木敏之さんにお話を伺いました。
きっかけは着物産地の悩み
平安油脂が創業したのは1934年。もともとは京都にお店を構える和ろうそく屋さんだったといいます。時代が進むにつれて電球が普及し始め、和ろうそくの需要が減少。ろうそく作りで培った油の技術を生かして新しいことをしようと模索していた時に知ったのが「着物を作る時に使われる油」のことと、「その油が使いにくいという着物工場の悩み」でした。
「着物を作るにはシルク(絹糸)を高速の織り機で織るんですが、その時に糸に強い摩擦が生じて糸が傷む。糸同士の滑りをよくして摩擦を軽減するために、どこの着物工場でも菜種油や灯油を使っていました。ただ、それらの油は、着物を仕上げる時に落とすのが大変。仕上げでスルッと落ちる油が求められていたんです」
当時、社長だった八木社長のおじいさんやお父さん、おじさんの研究魂に火が点き、完成したのが界面活性剤をブレンドした水に溶けやすい油(繊維助剤)でした。その評判は全国各地の着物産地に知れ渡り、引っ張りだこの商品となったのです。
「今では、京都の丹後ちりめん、滋賀県の長浜きもの、群馬県桐生市の着物など、全国各地の着物産地でうちの繊維助剤を使ってもらっています」
と八木社長は話します。
ちりめん ※写真はイメージ
機織りの様子 ※写真はイメージ
50種類以上もの繊維助剤をオーダーメイドで製造
養父に来たのは、戦争の時。油を扱う会社なので、外国から攻撃を受けてしまった時に町への被害が広がる恐れがあり、国から場所を変えるように言われたといいます。養父に決めた理由は、全国の八木さんの出がこの地だったこと、そして「八木城跡」があったことで縁を感じたから。それ以来、ずっとこの地で商売を続けて、八木社長で5代目になります。
八木社長も、もともとは研究者。繊維技術士という国家資格を持つ専門家です。大学院を卒業後すぐに平安油脂に勤め、様々な繊維助剤を開発・製造してきたといいます。
「当初から作ってきた繊維助剤はもちろん、着物を作る工程ではいろいろな薬剤(それらも繊維助剤と呼ぶ)が使われます。例えば、糸を撚る時にまとまりやすくする油とか、着物が出来上がった後に使う柔軟・艶出し剤など。いろんな種類の繊維助剤を作ってきましたね」
と八木社長。
また最初は、シルク専門の繊維助剤だけでしたが、洋服など他の素材で使う繊維助剤も作るようになったといいます。現在、平安油脂が作る繊維助剤の種類はなんと50以上!
「どの繊維助剤も織物工場ごとのオーダーメイド。さっぱり織りたいとか、ぎゅっと織りたいとか、お客さんによって織り方が違う。それぞれの希望に沿った助剤を研究しています」
助剤が水に溶ける様子
シルク専用の洗剤も開発
さて、広い工場を見学させてもらうと、大小様々なタンクがずらり。油などの繊維助剤が作られていたり、変わった形の製造釜も見せてもらえたりと未知の世界に迷いこんだみたい。
そんな中、粉洗剤を作るエリアがありました。
じつは、平安油脂では繊維助剤作りの経験を活かして洗濯洗剤も作っているといいます。お客さんは主にクリーニング屋さんやコインランドリー。他のメーカーと似たような商品では面白くないので、蛍光増白剤などの物質を配合しない環境負荷の少ない商品を作っているそうです。
私のような一般消費者向けの商品はないと思いきや。家庭用のシルク製品専用洗剤「シルクランドリー」も販売しているといいます。しかも、発売から25年のロングセラー商品なんだとか。
「洗濯しても繊維が硬くならない、洗い上がりがゴワゴワしないよう研究しました。シルクを愛用される方に売れ続けています。クレームもなし」
と八木社長は笑います。
最後に、八木社長に今一番力を入れていることを教えてもらいました。それは、シルクやウールの加工。
「糸を作っている会社と協力して、洗濯してもへたらないシルク、毛玉になりにくいウール作りに挑戦しています」
現在、ほとんどの洋服は合成繊維でできていますが、八木社長は「これから天然繊維回帰の時代がくる」といいます。お手入れが簡単なシルクやウールがあったら、そんな時代も遠くないかも。
「天然繊維の特徴を活かした研究開発にこれからも力を入れていきます」
八木社長は強く語ってくれました。